2013年11月30日

ミーティング

ここ2週間、3つほどレアなミーティングがありました。

GPRNミーティング
最近、グラスゴー大とストラスクライド大とNHSの一部の人たちが中心になってGPRNという研究グループを立ち上げた。異分野の知識・ノウハウを結集して統合失調症や躁うつ病などのpsychosis(精神病)と闘おう・そのための研究を推進させようという主旨のネットワーク。僕も文字通り末席を汚していて、1年前くらいから始まっていた会議に顔を出していた。

その正式な立ち上げイベントが11月20日にグラスゴー大で開催。
招待講演者は超一流の方ばかりで非常に勉強になった。招待講演者の人たちはアドバイザーという位置づけで、今後グループ内でコラボを推進していこうという方向。

MRCボードミーティング
MRCグラントの最終意思決定はボードミーティングで行われるのだけれども、そのボードミーティングに見学者として招待してもらった。

上述のGPRNイベントの後、飛行機に乗ってヒースローへ。終バス・終電を乗り継いでSwindonなる、UKの研究カウンシルの総本山がある都市へ。

翌朝、僕も含め3人がボードミーティングを見学。どのようなプロセスを経て最終意思決定がなされるのか知ることができてメチャクチャ勉強になりました。こういう機会を与えてくれるのはホントにすばらしい。

その帰り、ヒースローでメールをチェックしてたら、そのMRCグラントのレビューのオファーが。。。偶然なのだろうけど。

CCNi debate
そして今週木曜日、またまたグラスゴー大でCCNi debateなるイベント。脳の大域・局所回路の機能・構造に関するトピックで、UK、ヨーロッパから4人のスピーカーが呼ばれ、20分ずつトークし、最後文字通りディベートするという形式。

そのスピーカーのうち一人が元ボス・ケンでした。。良い意味で全然変わってなくて、ケン節炸裂。。

僕がいることに気を遣ってくれたのか、ラトガーズ時代の話が中心で、彼のトークの後、僕に直接話しかけてくれる人も。。。

ケンは招待講演者ということで忙しそうだったけれども、少しだけ話す機会があって、家族みんな元気そうでした。

2013年11月10日

REF2014

Research Excellence Framework、略してREF。UK内の大学の研究力を測って資金分配を決める独特の制度。大学への資金配分を決める制度だから、大学としては死活問題の超重要なイベント。

その申請締切が近づいてきて、ガーディアンネイチャーにも関連記事が出て盛り上がってる。

このREF、以前はResearch Assessment Exercise(RAE)という名称だったそうだ。RAEでは5年毎にUK内の大学の研究レベルを評価し、それに基いてお金の配分を決めていたもよう。

wikipediaによるとRAEはサッチャー政権時代の1986年からスタートしたみたいだからそれなりに歴史がある。

2008年のRAEを最後に、今回からREFと衣替えをしたらしい。その第一回目の申請締切が11月末で、一年かけて審査され、2014年末評価が下される。

このREF、簡単に言うと、個々の研究スタッフのアウトプットの総和を学部なり研究所ごとに測って、今後数年間のお金配分の根拠にする。

個々のスタッフのアウトプット情報は、最大4つまでの論文、支出額(過去エントリー参照)。そして「インパクト」なるものが今回から新しく付け加えられたもよう。そのインパクトがよくわからなくて、僕が理解しているところでは、社会貢献度的なもの。例えば、会社を興して・・・など。そういう時代だから、そういうものも測られる。。。

REFは大学にとって死活問題だから、露骨な戦略に出るところがある。
例えば、
・このREFの締切に合わせて有名研究者を外部から雇う。複数。。
・一部スタッフをティーチングスタッフにし(つまり戦力外通告)研究スタッフとしてカウントしない。。

倫理感を評価するとは明示されていないので、高得点を稼ぐためになんでもする。。。

REF申請のために、トップの人達や事務系の人たちはかなり時間を費やしている。そのためのスタッフを雇ったりもしているらしい。。。

何となく馬鹿馬鹿しいが、他に代替案を思いつくかというとそれはそれで非常に難しい。。。

結局のところ、良い研究をする、というのが本質なのに、余計なことでリソースを浪費しているのは確実。

RAEなりREFをモデルに似た制度を導入している国がいくつかあるもよう

とにかく、ベストではないけれど、UKらしい制度の一つ。

2013年11月3日

大学院指導教官の選び方

The real Prize is enjoying doing science. This is a Prize that I have won. I want my student - and every aspiring young scientist - to win it too.
- Ben A. Barres

大学院に進学する時、右も左もわからない状態で、たまたま興味を惹かれた・もしくは門戸が開かれた研究室を選んで・・・というケースが、自分も含め、大多数だと思われる。

中には、ラボ選びを誤り、不幸な大学院生活・研究者生活を送るケースもある。。。

けど、大学院進学時、研究室選びの指針・マニュアル的なものを入手し、賢く研究室を選べば、研究人生は大きく変わるはず。良い方向に。

そんな指針を提供しているエッセイが2週間前のNeuronに掲載されていたので備忘録としてまとめます。

著者はスタンフォード大のBen A. Barres

このエッセイによると
1.良い科学者
2.良いメンター
を満たす指導教官を選ぶべしとのこと。

良い科学者
良い科学者とは、もちろん「良い科学」をしている研究者。

まず、良い大学の指導教官が良い科学者とは限らない、と釘を刺す。逆もしかりで、有名でない大学でも、優れた研究をしている研究者はたくさんいてる。

つまり、大学で選ぶなと。

一方で、大学院の課程を通して「良い科学」・「悪い科学」を学ぶわけだから、大学院進学時に「良い科学」をしてる指導教官を選ぶのは至難の業。

では良い科学者をどうやって見ぬくか?

幾つか指針が示されている。

一番目は抽象的だけれどもこう:
重要な問題に答えるための研究をしていて、その問題に対して新しいコンセプトを打ち出すような研究、その問題の内部・仕組みに迫るような研究を進めている科学者。

例えば、万物になぜ質量がある?という超本質的で重要な問題に、新しい素粒子の存在を提唱する理論を考えたり、その素粒子の存在を実験的に証明したり、その粒子の性質を調べるような研究をしてノーベル賞級の研究をしている人たちは良い科学者と言って良さそう。

第二に、良い科学者はいわゆるトップジャーナルに論文を出していると。
一方で、ラボの規模も考慮に入れて、ラボの生産性を評価せよとも。そして、もしも5年間良い論文が出ていないようなラボはNGだとも。。

第三に、H-indexを紹介している。それが高い研究者は良い研究者の証(一方で、若手研究者には当てはまらないこともある)。

第四に、大きなグラントを当てているか。米国だったら、NIHだったりHHMIだったり、UKならRCUK系やWelcome TrustやERCのグラントか。日本なら科研費の大き目のヤツだったり、CRESTとかになるのか?(日本の場合、反対意見、つまりお金持ってる科学者が良い科学者とは限らない、という意見も出そうだが。。。毒)

お金がないとやりたい研究が制限され、実際問題として大事なので、良い科学をする上では必要条件のような気がする。

良いメンター
このエッセイではまずメンターのあるべき姿が述べられている。

メンターの重要な仕事の一つは、
学生が良い問題かつ手の届く問題を公式化させるのを手助け、その問題に取り組むための研究・実験を確立させるのを優しく(gently)指導しつつ、学生を時間をかけながら徐々に独立させていくこと、とある。

逆に、良いメンターは、学生に科学的にどうでも良いような問題に取り組ませないと。

また、良いメンターは、学生の指導にとにかく時間をかけると。
その指導には、科学に関するディスカッション、良い実験のデザイン法、データ解析・解釈、論文・グラントの書き方、論文レビュー、トーク、そしてキャリア指導が含まれる。つまり、科学者として必要な全プロセス。

さらに、良いメンターは、科学者としての経験値を上げるような各種コース(サマーコースやカンファレンス)への積極的参加を許し・推奨すると。

では、そんな良いメンターをどうやって見つけるか、興味のあるラボのボスが良いメンターかどうかどう見抜くか?

第一に、その現・元ラボメンバーと話せと。
ボスは時間をかけてくれるか?
ラボ生活をエンジョイしているか?
ラボにチームスピリットがあるか?
みんな助けあっているか?
ラボミーティングは、みんなが考え・アイデアを出し合う場か、それとも、ボスから次の細かい指示を仰ぐ場になっているだけか?

第二に、ポスドクと大学院生の比率を知れと。
もしラボメンバーがすべてポスドクだったら、ボスは学生指導をエンジョイしていない、積極的にその時間を減らしているリスクがあると。(ただ、学生比が高すぎると、逆にボスからの指導時間が減るのでは?と思うのだが。。。)

異様に大きなラボには要注意とある。

最後に、ボスのメンターとしての記録を知れと。
つまり、在籍してたラボメンバーが将来どうなったかを調べよと。


このエッセイはさらに(ダラダラと)続く。。。

まず女性研究者へのコメントとして、ボスに女性としてのロールモデルを求めるのも悪くないけれど、男性のボスも見て、女性のラボメンバーが在籍して良いトラックレコードを残しているか調べよと。

次に、上述のことに関連するけれど、在籍している学生がハッピーか確認せよと。

中には、週60時間以上労働を期待してるボスがいてそれを明示的に伝えてくるボスがいるけど、そういう外部プレッシャーではなく、学生自ら進んでハードワークをしたくなるような環境かが大事だと。

さらに、「ブラックラボ」とも言うべきラボ・ボスの例も。。。
自分のキャリアだけを考えて、学生のキャリアを考えないボス。
ラボ内で学生を競い合わせるボス。
学生を奴隷のように使い、学生に論文を書かせないボス。
論文をずっと寝かせるボス。
移籍時にプロジェクトや試薬などを持って行かせないボス。


このエッセイでは、ラボ選びを越えて、ラボを去るタイミングについてもアドバイスしている。
夢を抱いてスタートした大学院生活も多くの人は壁にぶつかる。ハッピーな大学院生がブルーなものになることはよくある。

そんな時はこうせよと:
ボスと腹を割って話し合えと。
ボスにその問題を解決させるチャンスを与えよと。

そして、もしボスが同情的でなかったら、ラボを変えよと。

もしハッピーでいれるラボが見つからないなら、サイエンスは正しいキャリアでない可能性もあると。けど、多くの場合、単にメンターがひどかったり、何らかの理由でラボがあってないだけとのこと。

さらにこのエッセイでは、一旦良いラボを選んだら、どうサイエンスに向き合うか少しアドバイスしている。
重要な問題を選び、流行りを追うなと。
数ではなく1つの良い論文を書くのに集中せよと。


後半、著者はメンターシップ論について述べている。

良いメンターシップなるものは、学生が去って終わるのではなく、その後の面倒を見ることも含まれ、大きな責任が伴うものだと。

そして、メンターシップを測るM-indexなるものを提唱している。M-indexとは弟子のH-indexの平均値。

良いメンターになるための記述も少しある。
その中で、The Gates Foundationが進めているMeasures of Effective Teachingのことも紹介している。(実際、リンク先にある資料は役立ちそう)


最後に、メンタリングをもっと評価する制度の必要性を説いてこのエッセイは締めくくられている。

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科学のことをいろいろ学ぶ機会はあっても、メンタリングのことを系統立てて学ぶ機会は皆無。

結局のところ、数少ない自分のメンターを教師・反面教師として、あるいは知人から伝え聞いて学んだりと、実際にやってる科学とは対極的な方法で、体験していくしかないのが現状。

一方で、メンタリングは、チームとして科学を進める上では非常に大事な問題。

このエッセイ、全体としてはちょっと読みにくいけれども、重要なエッセンスが散りばめられていて、今後定期的に読みなおしては、自分のメンタリング力を少しずつ高める必要があると思った次第。

なので、これから大学院に進学する人だけでなく、ポスドク・PI含め、神経科学を越えて役に立つエッセイだと思いました。