2011年10月23日

スコットランドの聖なる石~ひとつの国が消えたとき


スコットランドの聖なる石―ひとつの国が消えたとき (NHKブックス)
長女が通ってる補習校の図書室から借りて読んでみた。

この本は、スコットランド史を紀行小説風に描いた本で、特に「スコットランド」という国が消滅する前後のスコットランドとイングランドの歴史に焦点をあてている。

スコットランド史全体を簡単に触れながら、スコットランドがどのような背景で消滅し、それから300年後に議会が復活するまでをまとめている。それと同時に、各章の冒頭、歴史の舞台となる都市の現在の様子を紀行小説風に描いている。

国消滅前後の17世紀後半から18世紀前半の記述は非常に詳しい。

Robert Harleyなる人物が、「ロビンソンクルーソー」の作者として有名なDaniel Defoeを操りながら、如何に世論を操作していったか、という記述は特に興味深かった。

一方で、本のタイトルの「聖なる石」とは、スクーンの石のことを指すと思われる。が、この石は18世紀初頭の話とは、僕が理解している限り、関係ないし、本でも、冒頭部分で少し説明があるくらいで若干ミスリーディングなタイトル。

それはともかく、この本にもあるけど、スコットランドは国を失ったからこそ産業革命時代に繁栄できたというのはおそらく否定できないだろうし、むしろその牽引役として大きな役割を果たしたわけだから、イングランドと良い具合でシナジーを生みだした、と理解しても良いのかもしれない。

国を失う直前はDarien計画の失敗によって財政破綻状態だったらしいから、もしそのタイミングで議会を失わず、貴族同士の非生産的な争いを続けていたら、もっとひどい形で国を失っていたのだろう。その点では、国を失ったこと自体は悲劇だが、その後に人類史上に名を残す偉人を輩出したことは、スコットランドの人たちにとっては誇るべきこと。

この本が出版されたのは2001年。

その10年後の今、独立の話が冗談ではなくなってきている
数年以内に国民投票をするのは間違いなさそうだから、もしもそれが可決されるようなことになれば、文字通り国が復活する(おそれがある。。)。

ただ、1年住んで思うけど、スコットランドが独立国として政治経済を回していけるとはあまり思えないのは僕だけか。。。風車で経済まで回せるとは思えんしな。。。

それはともかく、感情論は理解できるけど、こんな時代だからこそ、またイングランドとwin-winの関係を築き上げる方向を模索した方が、結果的にはスコットランドの存在感を(良い意味で)高める方向に持っていけるのではないか。

とにかく、スコットランド史を勉強したかったから、この本は非常に良い読み物になった(かなりマニアックではあるが)。たくさん人物が出てきたので、忘れないうちに他の情報源で勉強しなおしたいところ。

2011年10月22日

チュートリアル終了、卒研、MRC、電話、新歓パーティー


10月前後から冷えこんできて、日照時間が大分短くなってきた。

チュートリアル
3週連続チュートリアル担当終了。
最終週は意外と難しく、質問にわかりやすく答えるのにえらく苦労した。。。

けど、チュートリアルには準備がほとんどいらなかったから良かった。ただ、生徒とのインタラクションは楽しいのは楽しいけど、エゴな視点にたつと、知的な刺激度がなく、終わった後何となくむなしさを感じる。。。実際、生徒たちにとっても、学ぶ内容がリアル世界で役立たないだろうから、余計に。。。教育機関としての大学というのは、根本的にリデザインしないといけないのがよくわかる。

セメスター1の教育義務は、2週間後の試験監督のみ(もしかしたら採点もあるか?)。セメスター2は、実習のサポート2コマ、あと生理学のレクチャーが。。

卒研
と、セメスター1の教育義務が一段落、と思ったら、今度は学部4年生の卒研?の割り当てが数日前に発表され、実験1人、論文調査3人割り当てられた。。。

2ヶ月くらい前に、project descriptorなる1ページの計画書をアップせよ、と言われ、学部生の研究だからと結構好き勝手に考えて計画書をいくつかアップ。希望者は少ないだろう、と思ってたら、無謀な学生さんたちがいてた。。

割り当て発表直後から、さっそく学生さんから連絡が立て続けに入り、来週、会ってプロジェクトを話し合うことに。。卒研だから、過剰な期待はNGなんだろうけど、割り当てられたリソース内でプロジェクトをカスタマイズ可能だから、できるだけ両者に利益をもたらすような方向に持っていきたいところ。

MRC
さらに忙しくなるな、と思っていたところに6月にアプライしてたMRCグラントのレフリーコメントが戻ってきた。。。

今回は5人からボコボコにされる。。。

BBSRCの時のように、フィードバックにはいくつかの項目があり、しっかりしたフィードバックが書かれていて、最後に6段階評価があった。それだけ見ると、かなりキビシメ。。。

論争の残ってるテーマで申請したから、レフリーの一人は完全に逆の立場で、完全否定的なコメントをいただく。なかなかエキサイティング。

他の人たちは、提案そのもののダメだしはないけど、多くの人からpreliminary dataの少なさを指摘された。

11月4日までに3ページ以内のリスポンスレターを提出することになっているので、先日のBBSRCの失敗を参考にベストを尽くして討ち死にしたいところ。

それにしても、BBSRCといい、MRCといい、なかなか良い勉強になった。グラント申請というのは、アイデアではなく、それプラスアルファの部分こそがクリティカルというのがよくわかった。良いアイデアなんて、誰でも持ってるわけだから、当り前といえば当り前か。

ちなみに、6月中旬に申請した後の経過としては、まずレフリーに回す前のチェックがあって(たぶん)、レフリーの締切は8月下旬となってる。その後、そのレフリーコメントをもとにshort listが決まるのに2ヶ月ほど(つまり10月下旬)。11月4日までにレスポンスし、それらを元に、11月末の会議で意思決定されるらしい。

半年弱の長丁場。。。

電話
グラスゴーにきてから大きく変わったことの一つは電話する機会が圧倒的に増えたこと。(NJにいた時は皆無だった。。)

今週、3件ばかしテレカンファレンス的なことをやる。

うち2件は、今取り組んでるグラント申請関連で、アメリカにいる共同研究者とのskypeが一件目。2件目は、研究所内の共同研究者と一緒に、グラント申請先の主要人物とテレカンファレンスを行い、質問をしたりする。UKの人たちも、積極的にコンタクトを取ってるから、こういうフロア活動的なことは大事なのだろう。

今回は、共同研究者がいてたから良いけど、一人で、となると、やはり躊躇するな。。。

新歓パーティー
10月からたくさん新しい大学院生が入ってきたということで、同じフロアにいてる人(20人ほど)で新歓パーティーが開催される。speed dating的な企画が設けられていて、この1年間話たことがなかった人とも少し話をすることができ、なかなか楽しかった。


チュートリアル、電話、パーティーなどなどと、英語で話す時間が圧倒的に増えていて、最近、英語で話すことに対するコンプレックスが減ってきてる。というか、開き直りに近い度胸みたいなものがついてきた気はする。

日本を離れて6年半でようやく。。。
NJ時代、いかに英語上達を怠っていたかを痛感中。。

2011年10月16日

格差社会 何が問題なのか


格差社会―何が問題なのか (岩波新書)

たまたまタイムリーなタイミングで読んだ。

この本は、2006年に出版された橘木俊詔氏による啓蒙書。
日本における格差社会の現状と原因、そしてその将来について非常にコンパクトにまとめられている。

OECDが発表したデータなどをもとに、欧米先進国と日本を比較しながら、日本はすでにアメリカ的な「低福祉・低負担の国」だということを力説。いくつかの具体例も挙げながら、現状を改善するための政策も提案している。

この手の話、僕は全然ナイーブなので、第一章でいきなりテクニカルな話が出たときは、途中で挫折するだろうと思った。けど、もう少し読み進めてみると、マスコミでも度々話題になる諸問題にメスが入れられ、非常に興味深い議論に引き込まれ、一気に読めた。

お薦め。

あとがきにあるように、著者は
・機会の平等・不平等
・結果の平等・不平等
・効率性と公平性の関係
・政府の役割
・企業と人々の意識と行動の変化
が、格差社会を議論する上で重要だとし、これらに基づいたトピックが比較的わかりやすく扱われている。

2006年の本なので、リーマンショック後の今となっては、やや「絵に描いたモチ」的な部分もあるのかもしれないが、基本的な知識を身につける上では非常に役立った。

この本を読むと、格差社会の問題は、最適解を導き出すのが難しい問題を複数同時に扱う複雑な問題だというのがホントによくわかる。最終的に日本はどういう方向を目指すかは、政治の判断によるところが大きいのだろうけど、今もしデモをするなら、政治を動かすくらいのデモをしておかないと、数十年後、格差のさらなる拡大が顕在化してからでは手遅れなのだろう。一方で、デモをする前には、この本を読むか、それに相当する情報を得て、何が問題か絞り込んだ上で、デモのターゲットを決めた方が良いのかもしれない。とにかく、格差社会の問題は、非常に不都合な現実だと思う。

2011年10月8日

チュートリアル、大学院生、KE


今週からチュートリアルの担当がスタート。

レクチャーのように少し説明する必要もあるかと思ってたら、基本的には学生さんに問題を解かせ、進捗を確認し、個別質問に答える、という形式だった。家庭教師以上、塾講以下という感じ。ということで、準備は楽。

ただ、登録生徒数が100人強で4グループに分かれているので、毎週4コマ分チュートリアルを繰り返すことに。1コマ1.5時間だから、週6時間の拘束。チュートリアルそのものは楽しいけど、もう少し知的に刺激的なものだとより良いのだが。。ちなみに、生徒の大多数は白人で、白人グループ、マイノリティーグループと、類は友を呼ぶ的な仲良しグループが形成されていた。。。

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昨日金曜日には、大学院生のinductionイベントが開催され、研究所のPhDコースの概要がわかった。今頃。

3年後にthesisを提出しPhDを取るのが最終目標なのはよい。その他に、genericなスキル(コミュニケーションスキル、時間管理などなど)を身に付けるコースもあって、15単位取ることが義務付けられているもよう。集中講義的なものが5単位で、しっかりしたコースが20単位だったと思う。なので、15単位取ること自体はそれほど負担ではなさそう。

それから、thesisは、最後に一気に書き上げるというより、3年かけて少しずつ仕上げさせようというスタイルみたいで、年2回くらいペーパーワークを提出して、進捗を確認するプロセスがある。

何となく、3年で終わるPhD専門学校、という感じで、日本ともアメリカとも違うなぁ、と思った。PhD過剰生産の問題はUKでもあるわけで、今回のイベントに参加していた40人くらいいてた学生さんたちは、PhD取得後の明確なイメージを持ってきているのか、少し心配になった。

これに関していうと、アカデミアにどっぷり、企業へ就職、という二つのオプションだけでなく、その間のオプションも実際にあることを最近になって学ぶ。

knowledge exchange(KE)といって、いわゆる産学連携を促進するためのポストにPhD取得者が従事し、アカデミアと企業との橋渡しをしようとしている。こういうポストは今すごく大事だし、特に景気が良くない間は間違いなく需要は高まっていくだろう。その意味では、genericなスキルの習得とアカデミアの現場の両方をしっかり3年間で身に付けるのは悪くはない。が、あらかじめ目的意識を持って3年間過ごさないと、どれも中途半端、ということになるリスクもありそう。。KEと言っても、それなりに特別な才能が要求されそう。

そのKEに関連して、昨日、コラボをスタートしてるベンチャー企業の人たちがラボを見学。その後、研究所内のKE関連職の人と簡単なミーティングを。研究所に、そういう産学連携を促進するためのグラントがあり、それにアプライしようということになった。少額だけど、これをきっかけに、大きな外部資金を当て、長期的なコラボに発展させよ、という意図があるもよう。こういう機会は今まで想像すらしてこなかったから、いろいろ勉強になる。

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最後に、今週他界したSteve Jobs。彼の完璧主義、コミュニケーションスキル、それから独創的なものを生むだけでなく、それをトレンドにしていく能力は、研究をやってる人間もあこがれる。こんなすごい人と同時期に生きられた自分は幸せ者。

Stay hungry. Stary foolish.

2011年10月2日

予想、光速、火


予想
今年の生理・医学賞は、山中教授が最有力とか。今年だけは、前倒しで良いから、できるだけ多くの日本人がノーベル賞を受賞して欲しい。今年はゲノムプロジェクトの記念年だったと思うし、こっちも有力か?こういう予想は今まで当てたことはない。。それにしても、中村修二教授の青色LEDって、今、多くの神経科学者もお世話になってるわけだから、すごいインパクト。

光速
ニュートリノ、光速超え?という記事の盛り上がり。思考実験としてタイムマシーンを考えるなんて夢があって楽しい。けど、どれくらいの物理学者がまともに受け取っているのか興味がある(マスコミが騒いでるだけという気も)。おそらく反証実験するなら相当のお金と年月がかかるんだろう。宇宙からのニュートリノをとらえた時の話が、今回の批判として非常に説得力があると思ったし、すでに反証データがあることにならないんだろうか。

むしろ、LHCのヒッグス粒子の検証実験の結果が、ぼちぼち本格的に出だすらしいから、おそらく焦点は、ニュートリノのスピードより、その結果が白か黒かわかった後の方なんだろう。素人だからいい加減な推測だけど。物理もエキサイティング。


Kindle fire。コンテンツという点で、アマゾンの充実ぶりはすばらしいから、US版のアグレッシブな価格設定はそれなりに納得。デバイスよりコンテンツ販売で儲けようという戦略なんだろう。他の企業にとってはメチャクチャハードルが上がったんではないのだろうか。

UKでは、fireの販売時期は明らかにされていない上、普通のkindleでさえ為替相場を考えるとやや割高。appleもそう。UKでガジェットを買う時、損をする勘定になることが多い。

それにしても、2年半前に買ったkindle 2は、まだ現役バリバリなのに、もはや化石扱いされそう。。。あの時は400ドルもしたのに、新しいのは79ドルでデザインもシンプルで悪くない。。。もう元は取った気はするけど、なんか悔しい。。

とにかく、fireでは、カラーなどの付加価値(-バッテリー時間)によって体験がどれくらい変わるのか興味があるところ。クリスマス頃には発売するんだろうか。とにかく買い。

2011年10月1日

visibility


今週2つトークをし、来週からついにティーチングがスタート。


トーク一つ目は火曜日。

今、大学ではticなる新しい建物のことで盛り上がっていて、それに関連したワークショップが今週立て続けに開催された。そのうち一つが神経科学関連だった。

そのticは、いわゆる産学連携を目的としたセンターで、エネルギー、光学、医療工学などの研究分野で企業とのコラボレーションを積極的に進めていくことを目的としている。スコットランド政府からの後押しもあって、かなりの額の投資をこれから数年していくらしい。

エネルギー関連では、学長スコティッシュパワーとのつながりもあったり、大学自体、風力発電の研究で強かったり、スコットランドは2020年までにrenewableエネルギーで80%の電力をまかなうということになっていたりと、いろんな環境が整っているらしい。

それはともかく、火曜日の神経科学のワークショップでは、各製薬会社の人たちや、産学連携を推進している人がトークしたりという内容。で、なぜか僕もトーク。。。建前上は、大学からspin-outしたベンチャー企業の人たちとコラボを始めたから、ということらしい。自分でも浮いてるなぁ、と思いながらトークした。。。

製薬会社の人たちからは、今の超厳しい状況がよく伝わってきたけど、Lillyは賢い企業だなぁ、と思った。どれくらいお金に結びつくか未知数だけど、新しいビジネスモデルに結びついていくかも。心の健康は市場としてメチャクチャ大きいわけだから、そこへリスク承知で果敢にチャレンジする企業は応援したい。

僕のトークでは、製薬会社関連の人たちがオーディエンスというのはわかっていたから、うちのラボの技術をどう応用できるか話してみた。背伸びをして。

トーク後のネットワーキングイベントで、何人かわざわざ話をしにきてくれたから、少しは興味を持ってもらったのだろう。こういうビジネスサイドの人と接するチャンスは今まで皆無だったから良い体験になった。あとはこれがコラボなんかにつながっていけばいいんだろうけど、その辺はまだまだ難しいか。

他には、政府系グラントの担当者もきていて、少し話ができた。こうやってネットワークを地道に広げていかないといかん。

そのネットワーキングイベントを途中で抜け出し、グラスゴー空港>ヒースロー経由でオックスフォードへ。夜10時ごろに着いて、翌日のAutumn Schoolでトーク。

その秋学校はオックスフォードが主催していて、一部はEUや中東からも学生が参加する学生向け認知神経科学関係イベント。僕の参加した日は「The Noisy Brain」というテーマで、このトピックに関連する研究者が8人呼ばれてトーク。ちょうどシンポジウムみたいな感じ。僕みたいな若手(?)から、ケンブリッジ・UCLの大御所まで。

緊張するかと思ったけど、意外と普通に話せた。
他の人たちのトークも面白く、えらく楽しめた。

一通りイベントが終わった後、講師陣で近くのバーへ。そして19時半から大学でディナー。そのディナーは、秋学校全体のディナーだったからかなりの人たちがいてた。教会みたいなホールに長テーブル














が3列あって、そこに座ってディナーコース。ハリーポッターの映画のように。

ディナーでは、この日の講師陣で一緒に座って、いろいろ話をして盛り上がり、そのあとさらにバーへ行って11時過ぎまで呑んだ。えらく良い体験ができた。

UKにきて、visibilityをどう上げていくか、というのは大きな壁だなぁ、と思っていたから、まだ論文が出る前にこうやって呼んでもらえ、ネットワークを広げるチャンスをもらえたのはホントにありがたい。

翌日、午前の飛行機でグラスゴーへ。
が、週前半に長女からもらったウィルスなんだろう、木・金と体調が優れず、昨日は悪寒がするから4時ごろ早退して熱を測ったら38.5度あった。。。長女はまだ風邪が完治してないから、今日の日本語学校はお休み。

来週からついにティーチングがスタート。

セメスター1は、チュートリアルを週2日で1ヶ月担当。週2といっても、生徒数が多いから全く同じチュートリアルを2日連続で担当するらしい。。。セメスター2では、ちょっと増えて、解剖実習のサポート役的な仕事に加え、レクチャーを3,4コマ担当することに。内容がエキサイティングとは言い難いので、まず教える方が如何にモチベーションを上げるかが大事だな。。

さて、どうなることか。