2013年11月3日

大学院指導教官の選び方

The real Prize is enjoying doing science. This is a Prize that I have won. I want my student - and every aspiring young scientist - to win it too.
- Ben A. Barres

大学院に進学する時、右も左もわからない状態で、たまたま興味を惹かれた・もしくは門戸が開かれた研究室を選んで・・・というケースが、自分も含め、大多数だと思われる。

中には、ラボ選びを誤り、不幸な大学院生活・研究者生活を送るケースもある。。。

けど、大学院進学時、研究室選びの指針・マニュアル的なものを入手し、賢く研究室を選べば、研究人生は大きく変わるはず。良い方向に。

そんな指針を提供しているエッセイが2週間前のNeuronに掲載されていたので備忘録としてまとめます。

著者はスタンフォード大のBen A. Barres

このエッセイによると
1.良い科学者
2.良いメンター
を満たす指導教官を選ぶべしとのこと。

良い科学者
良い科学者とは、もちろん「良い科学」をしている研究者。

まず、良い大学の指導教官が良い科学者とは限らない、と釘を刺す。逆もしかりで、有名でない大学でも、優れた研究をしている研究者はたくさんいてる。

つまり、大学で選ぶなと。

一方で、大学院の課程を通して「良い科学」・「悪い科学」を学ぶわけだから、大学院進学時に「良い科学」をしてる指導教官を選ぶのは至難の業。

では良い科学者をどうやって見ぬくか?

幾つか指針が示されている。

一番目は抽象的だけれどもこう:
重要な問題に答えるための研究をしていて、その問題に対して新しいコンセプトを打ち出すような研究、その問題の内部・仕組みに迫るような研究を進めている科学者。

例えば、万物になぜ質量がある?という超本質的で重要な問題に、新しい素粒子の存在を提唱する理論を考えたり、その素粒子の存在を実験的に証明したり、その粒子の性質を調べるような研究をしてノーベル賞級の研究をしている人たちは良い科学者と言って良さそう。

第二に、良い科学者はいわゆるトップジャーナルに論文を出していると。
一方で、ラボの規模も考慮に入れて、ラボの生産性を評価せよとも。そして、もしも5年間良い論文が出ていないようなラボはNGだとも。。

第三に、H-indexを紹介している。それが高い研究者は良い研究者の証(一方で、若手研究者には当てはまらないこともある)。

第四に、大きなグラントを当てているか。米国だったら、NIHだったりHHMIだったり、UKならRCUK系やWelcome TrustやERCのグラントか。日本なら科研費の大き目のヤツだったり、CRESTとかになるのか?(日本の場合、反対意見、つまりお金持ってる科学者が良い科学者とは限らない、という意見も出そうだが。。。毒)

お金がないとやりたい研究が制限され、実際問題として大事なので、良い科学をする上では必要条件のような気がする。

良いメンター
このエッセイではまずメンターのあるべき姿が述べられている。

メンターの重要な仕事の一つは、
学生が良い問題かつ手の届く問題を公式化させるのを手助け、その問題に取り組むための研究・実験を確立させるのを優しく(gently)指導しつつ、学生を時間をかけながら徐々に独立させていくこと、とある。

逆に、良いメンターは、学生に科学的にどうでも良いような問題に取り組ませないと。

また、良いメンターは、学生の指導にとにかく時間をかけると。
その指導には、科学に関するディスカッション、良い実験のデザイン法、データ解析・解釈、論文・グラントの書き方、論文レビュー、トーク、そしてキャリア指導が含まれる。つまり、科学者として必要な全プロセス。

さらに、良いメンターは、科学者としての経験値を上げるような各種コース(サマーコースやカンファレンス)への積極的参加を許し・推奨すると。

では、そんな良いメンターをどうやって見つけるか、興味のあるラボのボスが良いメンターかどうかどう見抜くか?

第一に、その現・元ラボメンバーと話せと。
ボスは時間をかけてくれるか?
ラボ生活をエンジョイしているか?
ラボにチームスピリットがあるか?
みんな助けあっているか?
ラボミーティングは、みんなが考え・アイデアを出し合う場か、それとも、ボスから次の細かい指示を仰ぐ場になっているだけか?

第二に、ポスドクと大学院生の比率を知れと。
もしラボメンバーがすべてポスドクだったら、ボスは学生指導をエンジョイしていない、積極的にその時間を減らしているリスクがあると。(ただ、学生比が高すぎると、逆にボスからの指導時間が減るのでは?と思うのだが。。。)

異様に大きなラボには要注意とある。

最後に、ボスのメンターとしての記録を知れと。
つまり、在籍してたラボメンバーが将来どうなったかを調べよと。


このエッセイはさらに(ダラダラと)続く。。。

まず女性研究者へのコメントとして、ボスに女性としてのロールモデルを求めるのも悪くないけれど、男性のボスも見て、女性のラボメンバーが在籍して良いトラックレコードを残しているか調べよと。

次に、上述のことに関連するけれど、在籍している学生がハッピーか確認せよと。

中には、週60時間以上労働を期待してるボスがいてそれを明示的に伝えてくるボスがいるけど、そういう外部プレッシャーではなく、学生自ら進んでハードワークをしたくなるような環境かが大事だと。

さらに、「ブラックラボ」とも言うべきラボ・ボスの例も。。。
自分のキャリアだけを考えて、学生のキャリアを考えないボス。
ラボ内で学生を競い合わせるボス。
学生を奴隷のように使い、学生に論文を書かせないボス。
論文をずっと寝かせるボス。
移籍時にプロジェクトや試薬などを持って行かせないボス。


このエッセイでは、ラボ選びを越えて、ラボを去るタイミングについてもアドバイスしている。
夢を抱いてスタートした大学院生活も多くの人は壁にぶつかる。ハッピーな大学院生がブルーなものになることはよくある。

そんな時はこうせよと:
ボスと腹を割って話し合えと。
ボスにその問題を解決させるチャンスを与えよと。

そして、もしボスが同情的でなかったら、ラボを変えよと。

もしハッピーでいれるラボが見つからないなら、サイエンスは正しいキャリアでない可能性もあると。けど、多くの場合、単にメンターがひどかったり、何らかの理由でラボがあってないだけとのこと。

さらにこのエッセイでは、一旦良いラボを選んだら、どうサイエンスに向き合うか少しアドバイスしている。
重要な問題を選び、流行りを追うなと。
数ではなく1つの良い論文を書くのに集中せよと。


後半、著者はメンターシップ論について述べている。

良いメンターシップなるものは、学生が去って終わるのではなく、その後の面倒を見ることも含まれ、大きな責任が伴うものだと。

そして、メンターシップを測るM-indexなるものを提唱している。M-indexとは弟子のH-indexの平均値。

良いメンターになるための記述も少しある。
その中で、The Gates Foundationが進めているMeasures of Effective Teachingのことも紹介している。(実際、リンク先にある資料は役立ちそう)


最後に、メンタリングをもっと評価する制度の必要性を説いてこのエッセイは締めくくられている。

---
科学のことをいろいろ学ぶ機会はあっても、メンタリングのことを系統立てて学ぶ機会は皆無。

結局のところ、数少ない自分のメンターを教師・反面教師として、あるいは知人から伝え聞いて学んだりと、実際にやってる科学とは対極的な方法で、体験していくしかないのが現状。

一方で、メンタリングは、チームとして科学を進める上では非常に大事な問題。

このエッセイ、全体としてはちょっと読みにくいけれども、重要なエッセンスが散りばめられていて、今後定期的に読みなおしては、自分のメンタリング力を少しずつ高める必要があると思った次第。

なので、これから大学院に進学する人だけでなく、ポスドク・PI含め、神経科学を越えて役に立つエッセイだと思いました。

0 コメント: