2011年5月7日

COSHH

COSHHとはThe Control of Substances Hazardous to Healthの略。危険物取扱いの一種。

2週間ほど前の連休の合間、そのCOSHHに関する講習会があって参加。リスク・アセスメント講習の化学・生物系マテリアル編。

UKでは、危険な試薬等(ドクロマークやら×マークやら火マークがついてるやつ)を扱う場合、しっかりリスク・アセスメントして、それを文書として記録し、それをラボに置くよう義務付けられている。

今回の講習会では、そのリスク・アセスメントの概要・手順などを説明してくれた。

その中で「リスク・コントロールの階層」なるものが登場し、リスク・コントロール10項目の優先順位の話が出てきた。いろんな場面で応用できるのかなぁと思った。

以下がその「階層」:
1.elimination
ようは、危険物は使わない、ということ。
危険な試薬は使わない。
原発なら、作らない。
生肉なら、食べない・売らない。
個人情報なら、ウェブサービスに一切登録しない・登録させない、サービスそのものをしない。
自動車事故なら、自動車をなくす・運転しない。
油料理による火事のリスク評価なら、油料理をしない。
ハードディスク破損のリスク評価なら、ハードディスクを使用しない。
PhD後の人生についてリスク評価するなら、そもそも大学院には進学しない。。。
そういうことか。
極端な発想ではあるけど、リスク要因を根絶できるならそれが手っ取り早い、ということ。

一方、安全だとわかっているものに代替できないか、ということも考えるもよう。

2.reduction
削減。低濃度のものを扱う。
原発なら、数を最小限に。
生肉なら、信頼できる店だけ(もしあれば)で食べる。一度に食べる量を減らす。
個人情報なら、登録サイトを最小限にする。
そんなところか。

3.engineering controls
装置などを導入してリスクをコントロールする、ということ。例えば、安全キャビネットを設置し、その中で化学・生物系危険物質を取り扱う、ということ。
原発なら、より安全なデザイン、防潮堤設置、耐震性向上、予備電源確保、そんな感じ?

4.general ventilation
これはCOSHHに特化してそうなのでパス。

5.good housekeeping
危険物を取り扱う場所のハウスキーピング。
原発なら、もろもろの設備の定期点検?
生肉を取り扱うなら、常に清潔な環境にしておくとかそんな感じか。

6.reducing time of exposure
危険物取り扱い時間の削減。
原発なら、稼働時間の削減?
個人情報なら、サービスを利用しなくなったら即情報を削除する、とか、新製品の発表会なんて待ってないで、ハッカーの攻撃が判明した時点で速やかに公表するとかも検討して良いか?

7.training
訓練。
事故を起こさないように、取り扱い者の教育・訓練を徹底する、ということ。
生肉なら、感染を最小限にするよう取扱者に徹底する、そんな感じか。

8.welfare facilities
ここでは、例えば手洗い場を設置して、取扱い後に手を清潔にして、危険物質が体内に入るのを防ぐ、とかそういうことだと思う。
生肉を扱うなら、手洗い・消毒を小まめにできるように設備を整える、そんな感じ?

9.PPE
personal protection equipmentの略だったと思う。これはマスクやラボ・コートやグラブなどのこと。
自転車に乗るなら、ヘルメットをかぶる、そんな感じか。

10.health surveillance
取扱者の定期的な健康診断。
これは事後審査的なものだから、優先度最低というのは納得。
PhD取得者に進路状況を確認し、今後の役に立てる、その類のリスク・コントロール。

以上、10項目。
このランキングがどこまで絶対的なものかは議論の余地があるとは思う。実際、講習会でも少し議論になった。けど、項目としては悪くないし、大まかな優先度は当たっているように思う。リスクに対して、こうしてシステマティックに評価するのはなかなか合理的な発想かなぁと思った。

講習会中、他に出てきたトピックとしては、リスクの数値化。
1.事故の程度
2.事故の起りやすさ
という二つのファクターで考え、それぞれ5段階評価し、リスクはその掛け算として数値化するらしい(掛け算はいかがなものか、とは思うが)。

1について。
原発の場合、かなりsevere。だから最大評価のレベル5。
PhD取得後のリスク評価の場合、ある意味生活・人生に直結するからsevereと言えなくはないけど、原発ほどではないか。レベル3か4くらい?

事故の程度は、何を扱っているか理解していれば、そこそこ客観的な判定ができる気はする。ただ、「即死」をレベル5とするなら、原発より自動車事故の方がリスクの程度は大きいと言えなくもない。結構、難しい。。。

さらに問題は2の判断。

原発なら、地震や津波の確率などを考慮にいれるのだろう。けど、経験・知識に依存する部分もあるから、客観的に評価するのは難しい。例えば、原発へのテロの確率なんてどう勘定したら良いんだ。。。自然災害の予測で完全なものはおそらくありえない。

より実際的な問題としては、大学院生が危険物質をラボで扱う場合、大学院生が違えば事故の起りやすさは違ってくる。

リスク評価は文脈に依存する。

日本やアメリカでもこういう発想はあったのだろうけど、そういう話を聞いたことがなかったし(覚えてないだけかもしれない)、時期が時期だけに、なるほど、と思いながら参加した講習会だった。

1 コメント:

匿名 さんのコメント...

坂田”先生”

リスク・アセスメント
日本では、教育としてやっているかはまちまちでしょう。
実験指針なる本も、ちゃんと売っています。
実験で起きる事故なんてのは、何処の国でも新しい人が入ってくる度に、頻発に起こっているでしょう。
命に関わるような事が起きないように、何れにせよ気をつけなくてなならないと思いますが。

前回の投稿で、かなり的外れな事を書いていたようで、失礼致しました。

schizophreniaについては、日本語の本でも特集が組まれていたので、読んでいましたが、最近のnatureで、anxiteyについてのletterがあったので、読んでみました。molecular levelでの話は、こんな話が出ているんですね。勿論anxietyが無ければ、向こう見ずな行動をしてしまい、自分の生命を危険にさらしてしまう。ただ、強烈なstressは、その人の行動までも制限してしまう事になってしまう。
しかも、LTPとも関わっているなんて、多少記憶力が悪い方が、anxietyの少ない人生を送れる?
(amygdalaの話なので、ちょっと違いますかね。)
anxietyは、自己防衛に必要でしょうが、balanceが取れていないと、やはり問題ですよね。