2009年1月14日

論文戦略

科学論文はどんな戦略で書くのが良いのだろう??

あまりまとまってないけど、僕なりの戦略をここで。
いつも大変なのはintroductionとdiscussionなので、そこを主に想定したポイントを。

1.サブテーマ列挙
ポイントとなるテーマたちを列挙する。そのサブテーマの多くは、イントロとディスカッションで重複しているはず。単純には、一段落一サブテーマという感じか。このサブテーマがいわゆる論文の「キーワード」の候補になったりするやもしれない。

2.勉強
各サブテーマの主要総説、あるいは良い論文のイントロを出発点として、できるだけ広く深く論文たちを読みこむ。実際に引用するであろう論文より多くの文献を処理する必要がある。

目的は、現時点でのコンセンサス・未解決問題を自分の中で明示的にすること。

サブテーマ内の関連文献を一気に処理した方がやはり良い。一方で、日々の論文読みでチャンネルを増やしておくことも特に1のステップでは重要だから、時間配分という意味でバランスが難しくはある。が、論文書きモードになったら、集中した方が良い。

サブテーマ内の関連文献を読んでいると新しいサブテーマが浮かび上がることもある。なぜなら、通常、多くの論文では複数のサブテーマを内包しているから。関連文献をたくさん読むと頻繁に議論されているサブテーマに気づく。

なので、このステップは、1のステップともオーバーラップする。
ただし、浮気せずに、一つのサブテーマと決めたら、とにかく集中的に読む。

それから、どれくらい深く文献を読み込んで、どういう文献を実際に論文中で引用するかは、素人かプロか、どれくらい深く考えているか、良い指標になったりして、論文の質に関する「文脈情報」を伝えたりもするから、実は論文の採択率を上げる意味でも重要な気もする。つまり、過去の文献という「データ収集力」が出る。

例えば、レフリーの立場になれば、「どれどれ、どんな文献を引用しておるか?」と見るだろう。そのレフリーというプロ中のプロをうならせればしめたもの。

3.文章化
一つのサブテーマを処理したら、次はアウトプット。

分野としてわかっていること、わかっていないことを書く。これは文字通りイントロを書く感じ。一方、自分のデータと関連付けたコンテンツ(解釈や今後の課題等)は、ディスカッションの素材になる。

このステップは、次の4とも強く絡むので、必ずしも小刻みにアウトプットする必要はないかもしれない。頭がスッキリしている場合は、飛ばしても良いし、逆に備忘録的に何らかの形で自分のためにまとめるというのも有効な気がする(いちいちアウトプットする分、短期的には時間はかかるが、中長期的には時間の節約につながる)。

この辺はフレキシブルに対応した方が良い。

4.断片化解消
1~3のプロセスを一通りこなすと、コンテンツが一応出揃うことになる。

が、やはりサブテーマといっても、重複する部分があったり、冗長だったり、まさに「多次元空間のクラウド」を相手にしているので、その「クラスター」たちを如何に統一させて、多次元空間を効率的に表現するか、という苦悩に満ちたプロセスがここか。synthesisと言っても良いかも。

ここは、正直僕はよくわからない。

この辺はサイエンティストとしての能力を問われる一つの壁かもしれない。うまく書けている論文はこの辺がとにかく光っている。ただ、簡単に真似できるものではないこともわかる。

5.朝が勝負
と言いながら、これは人による。

とにかく、最も集中力が高まる時間帯に1-4のステップをこなす、ということ。

村上春樹は朝に集中的に文章を書くらしい。論文書きは長編小説を書くのに比べたら、それほどパワーとセンスはいらないかもしれない。けれど、パワーが一番出る時間帯に、脳から文章を絞りだす努力をするに越したことはない。

6.それ以外の時間帯
ステップ2は終日取り組む必要があったりするからそれに充てても良いし、リザルトやメソッド書き、図の用意、追加解析、その他雑用的なことをやる。

7.結果は「結果」とも違う
リザルトは、ミニモチベーション・メソッド+結果+ミニ結論、を各図表に対応させながら書いていく感じか。

「リザルトは結果を書くところ」とアドバイスしている本を見たことあるけど、文字通りの意味で理解するのは危険。

なぜなら、みんながその通りやっているわけではないし、結果を論文中の文脈としておさめるためにフレキシブルに対応できないと良い論文にはならない。

特に一流誌の場合、メソッドは最後だったり、付録的な部分になるわけだから、「結果だけ」に頑固にこだわると、結局わかりにくい、記述的な論文になるリスクがある。

もちろん、データがすべてを語るような余程すごいデータを持っていれば、事情は変わるかもしれないが。。。

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最後に

論文の書き方として、神経科学系でいうと、やはりNature NeuroscienceやNeuronの論文たちは、文章という意味でも非常に質が高いものが多いなぁと思う。(NatureやScienceは別格な気がするのでおいておく。。。)

「このデータでこの雑誌!?」と思える論文は、得てして書き方が良い。より広いサブテーマを扱いつつ、なおかつ統一感を持たせて、新しいコンセプトを付け足している。

一方、上記の雑誌以下の論文で、「これだけやってxxxどまりか。。。」という論文は、その逆で、書き方が悪い(ことがある)。面白そうなのはわかるけど、少し分野が離れている人にとっては、何が重要か伝わらない、そんな感じ。。。

あと、ネイティブでないのにアメリカで成功している人たちが書いた論文からは学べることが多い。その意味では、日本人の励みにもなる?

と、
論文を書く作業は苦悩に満ちているけれど、やはり知的作業としては非常にexcitingでrewardingなものだな、と今更ながら思ったりする。

ちなみに、論文を書くたびに僕のストラテジーは毎回変わっている気がするので、上のステップはまた変わるかもしれない。

僕の研究スタイルは、基本的に行き当たりばったり派(良くいえばデータ・ドリヴン派)なので、名実共に仮説先導的なエレガントな研究スタイルとは違う。

なので、後者のタイプなら、全然違う戦略で論文を書いているのだろう。
その辺は要注意。

みなさんは、どんな戦略で論文を書いてますか?

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